砂漠の中に作られた巨大なピラミッド,
古代ローマ帝国がつくりあげた道路網や水道橋,
宇宙からでも肉眼で見分けられる万里の長城など古代の輝かしいモニュメントも,
それぞれの環境・人・社会・風土を色濃く反映しています.
文化のかたちは自然を映します.
そして様々なところで,自然と人,
人と人を結び付ける土木技術が進化してきました.
橋を造る:
社会システムがスムーズに機能するためには,
物質や情報が正しくかつ迅速・確実に輸送・伝達される必要があります.
またシステムが効率的に働くためには,
その物質・情報を安全に確保・保存しておくことも重要です.
社会基盤整備とは,
そのような社会システムとストックとを制御するための公共的施設である
橋梁・トンネル・港湾・道路・電力施設等を
計画・建設・管理し運用していく業務です.
その構造物への外乱は,
地震を代表に挙げるまでもなく不確定要素が大半で,
その作用に対して確実な安全性を有する構造物を設計するための力学
およびその応用技術の研究は,人類が存在するかぎり必要とされる分野の一つです.
近年では施設のイルミネーションも,
地域社会の文化施設としての機能を兼ね備えるという意味を持ち,
それが要請される時代であり,
またそうした柔軟な思考に基づく社会基盤施設の設計が嘱望されている時代です.
ウォーターフロントとジオフロント:
大都市周辺では,
海岸や埋立地を有効利用するウォーターフロント開発が盛んです.
しかし,ウォーターフロント部の地盤は一般に軟弱です.
このような地盤の地震や地盤沈下などに対する安全性を確保するため,
地盤工学あるいは土質力学の技術が活躍します.
ジオフロントとは,地下空間と人間生活の接点です.
青函トンネルやユーロトンネルは,その一つの例と言えますが,
最近では更に大規模な空間としての利用が考えられています.
地下都市や地下ビルなどの計画がたくさんありますし,
地下発電所や地下エネルギー備蓄など,
地下利用の夢はどんどん広がっていきます.
このようなジオフロント開発や地下環境の保持にも地盤工学の研究が生かされます.
良い施設のための良いコンクリート:
コンクリートは道路・橋・ダム・トンネルや,
その他ほとんどの土木構造物の建設材料として不可欠なものです.
コンクリートの質が悪ければ,できあがった構造物も悪いものになるため,
常に良いコンクリートを造ることが求められます.
土木構造物は 50 年,100 年という長い間,
風雨にさらされながら耐えなければならない為,
コンクリートに耐久性を持たせることは特に重要です.
また最近では,
品質や施工のやりやすさ等でコンクリートに対して,
より高度な性能が要求されるようになってきています.
そこで,今までになかったような性能や技術の開発が必要です.
炭酸ガスの排出規制が要求される現在,液化天然ガスの使用が伸びています.
電力の貯蔵のためには超電導機器用の容器が必要で,
これは -200 度という極低温を要求します.
極低温下におけるコンクリート構造物の性質についての研究も重要となっています.
不確実性への挑戦:
ダムや橋梁などの構造物を設計するに当たっては,
安全でかつ経済的でなければなりません.安全を左右する事象は,
荷重とその起源となる現象や構造物の挙動・人間の価値観など
広範で多様でありますが,これらの多くの不確定な事象をいかに定量的に評価し,
それをいかに設計に取り入れるかが極めて重要となります.
とりわけ,わが国は世界でも有数の地震国であるため,
構造物の設計にあたり耐震に関する事項ほど大切な問題はありません.
耐震設計は,地震動の将来予測,地盤や構造物の地震時応答解析,
そして安全性の評価という流れで行なわれますが,その基本は,
過去の地震被害を教訓とし,
構造物に適切な強度と粘りをいかに経済的に与えたらよいかを考えることです.
これらを研究するうえで基礎となる学問は,
代数・解析・確率・統計などの数学と力学ですが,
地震時に構造物がどのような挙動を示すかを模型を用いて実験的に確認したり,
実構造物の変形などを実測し,
それらを設計法にフィードバックすることも大切なことです.
マイクロメカニクスからマクロメカニクスへ:
我々の生活空間を支える公共施設建設に関連して
力学解析の対象となる材料は多種多様です.これらの中には,
地盤・岩盤・コンクリートのように,
他の工学分野の場合と著しく異なった複雑な力学特性を示すものが含まれています.
地震などの過酷な環境下におかれた構造体の安全確保のためには,
このような材料の力学特性を数理的に的確に把握することが必要です.
そして,そのために個々の材料が組み込まれた構造体の力学的健全度を
正しく評価する手法を開発することが求められています.
材料の巨視的な力学を構成するためには,
マイクロメカニクスや均質化法の研究が有効です.例えば,
写真のような粒子集合体の実験や,
これに代わるコンピュータによる砂のシミュレーション解析は,
液状化の発生機構等の解明に役だっていますし,
均質化法による解析は無数のひび割れを有する岩盤の力学挙動の予測に役立ちます.
また, AE 波計測システムは地震の震源地を特定するのと同じ原理で,
材料内部の微視的破壊源を特定することに用いられます.
これは材料の巨視的な破壊メカニズムを解明する上で重要です.
材料の幾何模様:
均質な材料にある刺激(例えば荷重)を加えると
色々なパターンが発生します.
写真にアルミの円筒シェルに現れた雁行モードの一例(G.W. Hunt 撮影)を示します.
斜めに同じような形と大きさのへこみが列をなして
雁が飛んでいるに並んでいるのが分かるでしょう.
実はこの雁行モードは金属材料の表面の塑性縞や岩の割れや断層等に現れる,
有名な幾何学パターンです.
このようなパターンの背後に潜む
数学メカニズムの解明が必要です.
研究対象は対称性があるもの全てであり,多岐にわたっています.
例えば,鋼材に代表される金属材料,砂や粘土等の土質材料,
コンクリートのような人工材料,岩に代表される地質材料,
並びに地殻構造,海底地形等の地質構造や人工構造物等々があげられます.
人間は雄大な自然,
厳しい自然,優しい自然,弱い自然,自然と向かい合い,
自然を良く知り,自然と共存する必要があります.日頃,
私達が手にしている安全.
土木工学はその時代の最先端技術を駆使して安全をつくりあげてきました.
地震・洪水・高潮・津波など,
古来から恐れられてきた災害から国土を守る努力が続けられています.
コックをひねればいつでもきれいな水が飲める.
トイレの水も気がつかない間にきれいな水になって海に流れ出ている.
臭いがしていた汚い川に魚が戻ってきた.
命を支える自然を最先端技術で守り,育てていく人達がここにいます.
地球環境の永久的保全のために:
人間の生活や生活活動の発展の結果,
汚水・廃棄物・排気ガス等が環境中に多量に排出されています.
その結果,河川・湖沼・海洋・大気・土壌の環境汚染や
地球の温暖化の問題が顕在化し,地球規模において早急な解決が迫られています.
これらの環境創造・環境保全のために,
環境微生物学,地球生物科学等の環境科学の研究を通して,
環境保全技術や環境計画手法の基礎研究が進んでいます.
生物学的汚水・汚泥処理技術,
特に省資源・省エネルギー型汚泥処理法として重要な
メタン発酵法の効率化についての基礎・応用技術が主な研究テーマです.
また,東北地方に多く見られる酸性河川における微生物の働き,
湖沼の富栄養化メカニズムの解明,地球温暖化を防止する技術に関して,
藻類による炭酸ガスの吸収とメタン回収,
および温暖化の原因物質であるメタンガスの
自然界からの生成機構と発生量についても研究しています.
清らかな環境とおいしい水をつくる:
川や海の汚濁をはじめとする環境破壊は,
確実に地球規模で拡りを見せています.
とくに水道水源は富栄養化や農薬の流入などによって汚濁が進み,
水道水の確保に不安が高まっています.21 世紀に向けて環境改善はもちろんのこと,
ますます質の高い水道水の供給が求められています.
このような社会ニーズを背景に,
湖沼・内湾・河川・地下水・森林等のフィールドにおいて,
水質・底質・土壌・植生・微生物などを調査すると共に,
現象に合わせた室内実験を行なって汚濁機構を解明し,
修復技術や将来予測,環境管理手法などについて研究しています.
水環境を浄化するために,
またおいしい安全な水道水を得るためにも水処理技術は不可欠ですので,
自然エネルギーや生態系を活用するなどエコテクノロジーを取り入れた
浄化システムの開発を目指しています.
さらに加速的に進んでいる地球環境問題のなかでは,
温暖化と酸性雨に積極的に取り組んでいます.
水の流れに学ぶ:
私達の生活に欠くことのできない資源,水.
環境水理学は環境のなかの水の運動を研究する学問です.
水は一点に留まることはありません.
雨や雪として地上に舞い落ち,地下に浸透し,
あるいは川に注ぎ,あるいは木の根に吸い上げられ,あるいは蒸発し,
あるいは田畑に導かれ,海に至り,再び空に帰ります.
近年,
人間の活動の活性化に伴って,種々の水環境問題が発生するに至り,
自然の水循環の様態を知るだけでなく,
それが人間活動によって変質している状況を把握し対策を講じることが
重要になっています.
そこで私達は自然的・社会的環境のなかでの水の運動を研究すると共に,
そこから自然と調和した人間社会のあり方を模索しています.
古来より,水という物質のもつ性質が,
人の生き方の手本として取り上げられてきました.
私達は今,環境水理学の研究を通して,
人間社会のあり方を水の運動から学ぼうとしているのです.
海の水を追いかけて:
四方を海に囲まれた我が国では,
水をうまく利用し制御する技術が,
安全で豊かな人間社会を下から支えています.
海の波や流れが引き起こす災害を防ぐ技術,
逆にそれらからエネルギーを取り出す技術があります.
また,かつては世界一美しいと言われた日本の海と砂浜を取り戻して,
子孫が長い年月にわたって心豊かにくらせるよう,
環境を守り育てていく技術があります.
冬には日本海をわたった季節風が水蒸気を集め,
多くの雪を山やまに降らせます.
この雪は春先に溶けだして,植物をはぐくみ,
私達の生活を支える大切な水資源となります.地球を巡る数々の人工衛星.
そこから電磁波を利用して計られた膨大な情報の解析が,
雪を有効に利用するための技術に結び付いています.
環境工学ではこのような技術の研究開発を行っています.
自然災害の制御を目指して:
人間の営みと自然力の干渉によって生じるものが自然災害です.
人が住むゆえに災害が生じ,利用の形態が変化するゆえに自然災害が進化します.
今まで,災害対策としては過去の事例を調査し防災や減災が中心となってきましたが,
数値シミュレーションなどを利用し,
変貌する災害を予想することが必要となっています.
この分野は,災害対策の概念を中心に,
国内外の現地調査研究,高精度津波数値予測システムの開発,海岸線の防災法,
グラフィクス解析など数値計算を主とした研究を行なっています.
特に,その計算技術は世界の津波被災の予想される国への
国際的な技術移転の対象となっています.
TIME (Tsunami Inundation Modeling Exchange) プロジェクトは
その中核となっています.図のイラストはシンボルマークです.
川を渡り,山を越え,草原を走り抜け,
日本列島を縦横断するハイウェイ.
時速 200 キロで都市と都市を結ぶ新幹線.世界各国,主要都市を結ぶ航空路.
ベイブリッジの下を巨大な船が出入りする横浜港.これが我々のフィールドです.
この美しい故郷にいつまでも住み続けたい.
美しい仙台の街をもっと住みよい町にしたい.
歳をとっても文化や芸術に触れていたい.これが私達のテーマです.
住みよい街を目指して:
豊かで美しく快適な国土とはどんなものなのだろうか?
子供から老人に至るまで,
みんなが幸せで便利な街を造るためには何が必要なのだろうか?
人間社会計画学はそうしたことを考える学問です.
国土・地域・都市・町村の骨格をなす施設は社会基盤と呼ばれています.
それらの施設の調査・計画・建設・運営・維持管理に関する研究を行なう学問分野,
それが人間社会計画学です.
空間計画科学分野では社会を総合的な機能の空間として考え,
その計画のシステム的研究を行なっています.
例えば,経済を支える物資流動を,
自動車・鉄道・船舶といった総合交通体系の中で考え,
分析・予測・計画・評価を行います.
この時,世界各国の経済成長を考え,国際貿易の将来を考えるのは当然です.
望ましい街造りをするために,SIM CITY のような
コンピュータ・シミュレーションで都市の将来を予測します.
土地利用計画も交通計画も人間の知性とコンピュータとの対話から決まります.
様々な動脈が国を支えている:
社会システム計画学分野では
個別の機能に着目して計画を進めます.
例えば,君達の住む仙台市.
都市の計画の中ではバスの活性化や地下鉄の整備,
都市内高速路の配置計画などが大きなテーマです.
長い歴史を経た神社・仏閣や,都市内・郊外に拡る緑,
それらの保全と適正な開発は計画学の課題です.
皆さんが利用する仙台空港.空港の計画は,
航空旅客・貨物の需要の将来を予測し,場所や規模が決められます.
飛行機のスケジュールはニューラルネットワークという最新の技術で決定され,
利用の在り方が検討されます.日本の経済を支えている港湾は人目につきません.
しかし,コンテナ輸送は世界の貿易を一変させました.
超高速船は日本の輸送体系を急速に変化させるでしょう.
そうした港湾計画の研究も私達はやっています.
交通施設整備や産業誘致による地方都市の活性化の研究は
経済学の分野と密接に関係してきます.
社会システムの計画は他の学問分野との協力の下に行なわれています.
快適なドライブ空間:
道路は日常の通学,
レジャーの行き帰りやドライブ,
さらには生活に関連するほぼ全ての物資の輸送手段などの点で身近な社会施設です.
道路交通は一方,建設に伴う自然環境破壊,騒音・大気汚染などの公害,
地球環境にかかわる炭酸ガスの排出,
年間1万人以上の交通事故死などのマイナス面を有しています.
また増大する道路施設の適切な維持管理は,
社会経済的な観点から今後の重要な課題です.
交通制御学分野では,より安全で快適な交通環境を創りだすため,
道路交通に関係する交通制御や施設管理などを学問領域として,
コンピュータシミュレーションや確率・統計的な情報処理による研究が
行なわれています.車両を自動認識することによる料金自動徴収システム,
人工衛星や路車間通信により現在の位置を知り目的地へと誘導する
ナビゲーションシステム,
水中トンネルや大深度地下道路など高度化する技術に応じて
自動車および道路はこれからも大きく変化していきます.