ここではまず,集中外力を分布外力のように扱う手法を概説する。
このような扱い方がわかると,後述の単位荷重法や影響線の考え方の理解が
容易になると同時に,その仕組みの証明等に非常に便利だからである。
例えば
点に集中外力
のみ
がある場合の(不)連続条件は
である。もし形式的にこの集中外力を分布外力
と
表現すると,変位で表した力のつり合い式は
と表すことができる。
ただし直感的に,分布外力
は点
のごく
近傍以外には作用していないことを前提とする。
そこで,この式を
から
まで定積分しても零のままの
はずだから,上のせん断力の不連続条件を考慮すると
を得る。
すなわち,集中外力
と等価な分布外力表現
は
を満足していることになる。これは「集中外力を非常に幅の狭い
区間に作用する分布外力として取り扱うことができる」ことを
示しており,その「集中外力の大きさはその分布外力の総面積に
等しい」ことを示している。つまり,図示すると
例えば図-4.48のようになる。
また,先に述べたように直感的には
は点
近傍以外では零であろう
から,上の式は積分範囲を梁の全長まで拡張しても成立している。
つまり
と書いてもいい。数学ではこのような
関数(本当は超関数
)
をDiracのデルタ関数で表し,この場合
と表すことができ,形式的には集中外力
が作用する梁の
つり合い式を
と表すことができる。「形式的」と書いたのは,式(4.53) (4.54)の 等号は「超関数的」なもの(ある関数を両辺に乗じた上での積分同士が 等しいというもの)であって通常の等号ではないからである。 つまりデルタ関数は次式の定義のように,ある関数との 積の積分としてしか意味がないのである。
正確なデルタ関数の定義を最後に示しておく。無限点で零になる,
十分滑らかな任意の関数
(試験関数
と呼ばれる)に対して
を満足する超関数
をDiracのデルタ関数
と呼ぶ。
上の式(4.52)は
,
,
の場合に相当する。
例えば
点に集中モーメント
がある場合の(不)連続条件は
である。
この場合には式(4.51)を直接ではなく
両辺にある程度滑らかな関数
を
乗じた上での
から
までの積分を試みる。
ただし簡単のために,ここでの
は
つまり分布外力の作用していない梁のたわみを用いることとする。
つり合っているとしているから
を満足する。あとに出てくる仮想仕事の式である。
これを4回部分積分し続けると,
不連続なのがたわみの2階微係数
のみである
ことと,
の4階微係数が零であることとを考慮して
であることがわかる。Diracのデルタ関数と同じく,超関数の
性質を数学の書籍から取り出すと
になる超関数
は
と表現され得るとある。式(4.56)をその上の式の左辺に
代入して1回部分積分をし,
,
でデルタ関数が零で
あることを用いれば式(4.56)の右辺を得る。
ただし,デルタ関数の微係数を図化しようと試みてはいけない。
したがって,形式的には集中モーメント
が作用する梁の
つり合い式は
と表すことができる。これはちょっと難しいかもしれない。
ただこのことは,図-4.49のように考えると直感的な
理解ができるかもしれない。つまり
だけ離れた
点に大きさが同じで向きが逆の二つの集中外力が作用している場合を
考えてみよう。この外力は前節の結論から
であり,ここで
とする一方で,
この二つの力が作る偶力
を一定
にする制約条件を
付けておくと,上式は
となる。一方,デルタ関数の作用による解は通常
のみの
関数となることから,デルタ関数そのものも
と
表示されることが多い。これを上式に代入して
の
極限をとると
のように式(4.56)を誘導できる。 実はこれは,震源モデル として用い[2]られたりする。
前節の集中外力の数学的表現を用いて,面白い手法を紹介しておこう。
例えば図-4.50にあるような二つの系A, Bを考える。
系Aは適切な境界条件の元に
を満足しているものとし,こちらを解きたい問題としておき,
この点Rのたわみだけを求めたいものとしよう。
一方,系Bは系Aと同じである必要は無いが,
その点Rだけに単位荷重を載せた系である。
載荷点R (
)の位置を明確化するために系Bのたわみを
と
表すことにすると,それは適切な境界条件の元で
を満足している。ここで前節の集中外力のデルタ関数による表現を用いている。
さて,式(
)に系Aのたわみを
乗じて全スパンで積分したものの値は零になることは明らかであり,
それが仮想仕事の原理だという物理的考察等は敢えてする必要は無いだろう。
つまり
である。被積分関数の第2項部分は,
デルタ関数の定義式(4.55)を用いれば,
系Aの点Rのたわみ
になる。
一方第1項については2回部分積分をして上式を変形すると,第2項と合わせて
となる。これに式(
) (
)に
ある曲げモーメントを代入すると,最終的に系Aの点
での
たわみ
が
と表現できることがわかる。ある点のたわみを求めるこのような 方法を単位荷重法 と呼ぶ。 解きたい問題の曲げモーメント分布と幾何学的境界条件がわかって いると同時に,着目している点に単位集中荷重が作用した 別の問題の解が求められていれば,モーメント分布を2回 積分する代わりに着目点のたわみを上式で求めることができる。 構造解析手法という観点からはそれほど有意義な手法とは言い難いが, その概念自体は諸定理等の理解のためにも気に留めて おく価値がある。
例えば図-4.51のような不静定梁の点Rのたわみを
求めたい場合に,例えば重ね合わせの原理でモーメント分布が求められていたと
しよう。この場合は式(4.32)より
である。すべての点のたわみを求めるには,この表現を
さらに2回積分して幾何学的境界条件を用いればいいことは既に示した。
ここではある1点R (
)のたわみを簡便に求める方法として,単位荷重法を
用いてみる。
この場合の境界条件は
だから式(4.58)の右辺第2項はほとんどが零になり,
結局
となる。
この右辺第2項が零になるような系をB系として選ぼうと
すると,
でありさえすればいいから,
次の図-4.52の三つのどれでもいいことがわかる。
この中で一番簡単なのは(c)の場合なのでモーメント分布を計算すると
である。この
と先に求められた
とを上式に代入して計算すると,
最終的に
となる。もちろん
を
で置き換えたものは
任意点
のたわみの厳密解式(4.31)に一致する。
つまり極論すれば,
の方の系は長さ
の片持ち梁でもいいわけで,
たいへん興味深いと思ってもらえないだろうか。
式(4.58)から明らかなように,
境界の項の右辺は,仕事をする組み合わせで
になっていることを知っていれば,計算が最も簡単になる 単位荷重系の選び方がわかる。
あるいは逆に,上と同じ系を対象としてその左端の不静定モーメント
反力を求めることを試みよう。
元の系は分布外力を受ける単純梁と,左端に不静定モーメント
を
受ける単純梁との重ね合わせでも再現できる。したがって,その
モーメント分布は
となる。単位荷重をかける系として前例と同じように片持ち梁を
考えるが,今回は
点に単位荷重を作用させる。
この二つの系に単位荷重法を適用すると元の系の
右端のたわみが計算できるはずであるが,そこは支持されており
たわみは零になっていなければならない。つまり
である。これに上の
モーメント分布関数
と
とを
代入して積分を実行すると
と,不静定モーメントの厳密解を得ることができる。
ここでは系Bが系Aと異なる場合も含めて一般的な定式化をしておいた。
しかし多くの教科書類では,系Bは系Aと同じものを選んでいるようだ。
もし系Bと系Aを同じにした場合,解きたい系Aで
幾何学的な零境界条件が与えられていれば,
式(4.58)の境界の項は零になる。
また系Aで集中せん断力が作用している場所のたわみを求めたい
場合を除けば,系Aで集中せん断力あるいは集中モーメントが与えられている
境界には,系Bの単位荷重は作用させない。
したがって,系Aで
が零でない境界には集中せん断力が与えられていることから,
系Bのその位置にはせん断力は作用していないはずだから,
式(4.58)の境界項の第1項
は零になる。
また系Aで
が零でない境界には集中モーメントが与えられている。
したがって,系Bのその位置には集中モーメントは作用していないことになるから,
式(4.58)の境界項の第2項
は零になる。
もし,系Aで集中せん断力が与えられている点のたわみを求めたい場合は,
その位置のすぐ横
の位置に単位荷重を与えた
を
求めることに(あとで
と)すれば,以上の考察が成立する。
したがって,系Bが系Aと同じ場合には,単位荷重法は
でいいことになる。 これがたいていの教科書に載っている公式である。 もちろん,系Bの選択が少し自由になる公式(4.58)の方がカッコいい!