章-2では静定梁を紹介し,変形して抵抗する細長い構造の抵抗力, 軸力と曲げモーメント・せん断力を導入した。 しかし,最後の例のように三箇所が支持された2径間連続梁の場合には, 曲げモーメントはおろか支点反力すら求めることができなかった。 そのため章-3では, 変形そのものと抵抗力の定義と, それを用いた材料の抵抗の記述・モデルについて学んできた。 ここではその知識を活かして,どんな梁でも解けるような理論の定式化をする。
さて棒は非常に細長いもの, 少し定量的に書くと,3次元空間に横たわる物体のある1方向への 拡りが他の2方向への拡り方よりもかなり大きなものとして定義される。 このような物体であれば,寸法が一番長い方向への力学諸量の変化に 比べて他の2方向への変化はそれほど大きくならず,何らかの簡略化 すなわち近似ができるかもしれない。 もしそういった近似によって得ることができる理論が明解で,かつ 解が実用上問題が無いくらいの精度を持つことができれば, 変形できる物体の力学として2次元あるいは3次元解析するよりも, 少なくとも設計段階ではとても実用的である。 この章では,そういった工学的に有用な理論としての,曲げを受ける棒の 力学の定式化を行う。曲げを受ける棒部材を梁 と呼んでいる。 ただし基礎理論を詳述したいので,アーチや曲線橋のように 曲がった棒(曲がり梁)の力学については 触れない。 またトラスの弦材のように軸力を受ける棒部材を柱と呼ぶ。 この軸方向の力学については最初の定式化でのみ含め, いわゆる梁の力学についての節では無視する。 なお,この文書には力学理論の背景と基本的な応用だけが記されているので, 手を動かして身に付けるためには,是非文献[106]等で 多くの問題を解いて欲しい。
曲げを受ける非常に細長い棒を梁と呼ぶことにしたが, 簡単なスポンジの実験(図-4.1の右側の写真)を はじめ多くの実験から,図-4.1の左側に示したような, 次の二つの基本的な仮定を設けることができそうなことがわかっている。
この基本的な仮定を満足しながら曲げを受ける
梁をBernoulli-Euler梁あるいは初等梁と呼び,
この節で定式化される理論を初等梁理論
と呼ぶことがある。あとで図-4.4でも
説明するが,章-3の最後の
例題で求めた梁の応力成分の解の式(3.131)から
ひずみ成分を計算すれば,
曲げを受ける細長い棒で上の二つの仮定が近似的に
成立することを確かめることができる。
ここでは簡単のためにも,また梁理論の基礎を
示すためにも,章-2で
例として扱ったような-
面内(章-2では
-
面内)で
変形する梁のみを対象とする。
図-4.1に示したように軸を梁の細長い方向に
定義し,それを変位前の軸線
と呼ぶことにする。また,自重や荷重が鉛直下向きに作用することや,
後述の曲げモーメントの正の向きを念頭に置いて,
軸を鉛直下向きに
定義し,
-
面内の曲げ変形をこの章では対象とする。
梁をモデル化するに当たっての二つの仮定を章-3で
導いたひずみで表すと,第1の仮定は
である。つまり,断面形状が変化しないことは-
面内の2方向の
伸びと角変化が零になることである。また第2の仮定は
(4.2)
となる。つまり,ここでは一般論として-
,
-
面の両方を
取り上げてみたが,曲げを受ける面内での角変化が無い
条件がBernoulli-Eulerの仮定である。
図-4.2に
示したように梁の細長い方向を方向に一致させると,二つの
ひずみ場の仮定式(4.1) (4.2)は
同図のようなたわんだ状態を描くことになる。
すなわち断面形不変の仮定により,
ある断面の
軸から
だけ離れた点Aは,
たわんだあともたわんだ状態の軸線(破線)から同じ距離だけ離れた点Bに
変位する。またBernoulli-Eulerの仮定により,
軸に
直交していた任意の断面はたわんだあとも軸線と直交する。
したがって,点Aの2方向の変位成分は幾何学的な関係から
となることが明らかである。を
断面の軸方向変位,
をたわみ,
さらに
をたわみ角
と呼ぶ。上式の最後の表現ではたわみ角
が非常に小さい範囲の
理論であるとし,
の条件
で
,
と近似し,たわみ角の2次項以上を無視してある。
次にBernoulli-Eulerの仮定式(4.2b)にこの成分を代入すると
となり,たわみ角がたわみの一階の微係数で表現できることを
教えてくれる。つまり
である。この文書ではたわみ角を反時計回りを正として定義したため, 右辺にマイナス記号がある。 このように,微小な変位しか生じない範囲での梁の変位成分は
(4.5)
となる。
大切なことは,任意点の変位が軸線上の点の変位(だけの
関数)
と
と
の1次項だけで表現できていることである。
前節の仮定より,零でないひずみ成分は
梁の場合にはだけになる。
定義に従って,式(4.5a)を式(3.6)に代入すると
となる。
つまり梁を曲げた場合に発生するひずみは,図-4.3に
示したように
の任意の断面で
方向に
線形分布をすることがわかる。いわゆるひずみの三角形分布
と呼ばれるものである。
は軸線の伸び
であり,
は
変形して曲がった梁の軸線の曲率
を表している。
式(4.6)も,梁の断面内の任意点のひずみを軸線上の
二つの量と
の1次項だけで
表すことができることを示している。このあたりが構造力学の特徴である。
つまり,未知関数は
だけの関数になるので,前章の連続体の力学とは異なり,
最終的な支配方程式が常微分方程式になる。
ここでは弾性梁理論を定式化したいので,
式(4.6)を1次元のHookeの法則,つまり
式(3.116a)に代入すれば,直応力が
となる。はYoung率である。
ひずみが図-4.3のように線形分布しているから,
応力も同様に線形分布をする。これは章-3の
式(3.131a)の右辺第1項に相当している。
この式が,材料の抵抗則を表す構成則であり,この関係式が
不静定構造の解析には必要になるのである。
つまり,実際にどういった変形が生じ,その材料がどのような抵抗力を
発揮して断面力を発生させるのかという情報を,
この式(4.7)が与えてくれる。
これによって,2径間連続梁のような不静定構造が解けるようになる。
さて一方,式(4.2b)をそのまません断のHookeの法則
式(3.114b)に
代入すると,せん断応力は断面には発生していないことになる。
このせん断応力についての結論は素直には受け入れられないと思われる。
というのも,
このひずみ分布を信じるならば,梁は非常に薄い板を何枚も重ねた
ものとしてモデル化でき,それぞれの板がお互いにすべりも
せず重なりも離れもせず,しかし,せん断抵抗は無いまま
単に伸び縮みの変形のみによって抵抗していることになる。
またこれは式(3.131b)に反する。
しかし細長い物体では,の大きさに比べて比較的
小さいせん断応力
しか発生しないことは,
これも式(3.131)から示すことが
できる。図-4.4は
式(3.131)から算定される応力の最大値同士の比を比べた
もので,
,
,
と
定義して,それぞれの比を細長さ
に対して示したものである。
このように細長い梁では,
に比べて他の2成分が一桁くらい小さい量
![]() |
(4.8) |
であることがわかる。つまり,式(4.7)で得た
応力は二つの基本的な仮定を厳密に用いたことによる結論であるが,
その仮定そのものは図-4.4程度の
誤差あるいは近似度を持っているということには
留意する必要がある。
つまり,初等梁理論が細長い物体に対する近似解に過ぎないことは
明らかである。
ただこの理論を用いる限り,実験等との比較から,
特に式(4.7)の直応力を
工学的に十分な精度で計算できることもわかっている。
したがって大胆ではあるが適切な仮定で現象をモデル化することにより,
常微分方程式で表現されて取り扱いが楽な理論がここに構築されようと
している。
もう少し近似度の高いせん断応力の誘導については後述する。
章-2で誘導した梁の抵抗力つまり断面に発生した
断面力(合応力)が,ひずみあるいは変位とどのような関係を
有しているかについては,
上の結果を各合応力の定義に代入すればわかる。まず,軸力
は断面内の直応力の総和であるから
となる。ここに
![]() |
(4.10) |
で定義され,は断面積,
は断面1次
モーメント
と呼ばれる断面定数で,純粋に断面の形状のみに依存した定数である。
という関係になる。ここには断面2次モーメント
と呼ばれる断面定数4.1で
![]() |
(4.12) |
で定義される。 この二つの関係式(4.9) (4.11)が, 断面力と軸線の変位の間の関係式として表現した広義の構成則4.2であり, 不静定構造を解くのに必要な関係式なのである。
なお前節でも述べたように,仮定によってせん断ひずみを零と しているため,その仮定の範囲ではせん断応力も零になるから, 断面力として確かに存在するはずのせん断力は,上のように 変形と関係付けられる量としては定義できない。 これは比較的簡単な境界値問題で直応力を精度良く求めるために 定式化された初等梁理論が持つ矛盾点である。 したがってこの節では,変位や変形と直接関係付けられた断面力としての せん断力は定義することはできないが, 次節以降ではもちろん考慮する。もしこういった天下り的な せん断力の導入がお気に召さない場合には,付録-Cに示した 仮想仕事による支配方程式の誘導を参照して欲しい。
もし軸が断面の図心
を通るように設定されていれば,
図心の定義が「その点を原点とした断面1次モーメントが零に
なる点」であることから
となり,上の二つの断面力と変位成分の関係は分離でき
(4.13)
と表すことができる。式(4.13b)では式(4.4)の関係を
用いている。つまり,軸力が伸び剛性を
抵抗係数とし軸線の伸び
という
変形による抵抗力であるのに対し,曲げモーメントは軸線の
曲率
という
変形による抵抗力でその抵抗係数が曲げ剛性
で
あることを示している。したがって
同じ断面積を持つ断面同士で比較したとき,
レール断面のように断面2次モーメントが大きくなる形の方が
より大きな曲げ抵抗力を有する理由がここにある。
さて,合応力とひずみおよび直応力との関係を求めるために 式(4.6) (4.7)に 式(4.13)を代入すると,伸びひずみと直応力は
(4.14)
と表現できる。このように,
曲げを受ける部材に生じる応力は断面の上下縁で最大になるため,
例えば,中立軸から最も離れた断面の縁までの軸の
座標値を,
の負方向(上方)に
,
正方向(下方)に
と
表すことにすると,その断面
での
正負の最大応力(最外縁応力
,
)は
となる。そこで
で定義される断面係数
を用いると,曲げと軸力
を受ける梁に発生する(正負の)最大応力は
と表すことができる。
ここでの定義ではは符号を持つため,公式集の定義とは
異なる(絶対値は同じ)ことに注意して欲しい。
で算定できることを示せ。さらに,鋼の板構造のように肉厚が
非常に薄い場合
には,上式右辺の第1項を
無視した簡便な表現で近似できることも確認せよ。
ここで誘導するつり合い式は梁の中のある点の
近傍における局所的なつり合い式で
あり,章-2の前半で対象としていた外力と支点反力の
つり合いのような梁全体の巨視的なものとは異なる。
つまり節-2.3.5で誘導した
微分方程式で表したつり合い式を,もう一度,
梁のある微分線要素
を取り出して,軸力も含めて
そこに生じている内力(断面力)と分布外力のつり合い条件から
求めようとしている。
図-4.6のように分布外力が作用し,前節で
述べたように合応力としてのせん断力も発生しているとすると,
この微分線要素の方向の力のつり合いは
となることから
がせん断力のつり合いである。
次に点Aの反時計回りのモーメントのつり合いをとってみると
となるが,分布外力による項は2次の微小項となるため,結局
がモーメントのつり合いになる。この式を
逆に
と見て,
せん断力が曲げモーメントの変化率で定義されていると
考えても差し支えない。
式(4.18)を式(4.17)に代入することに
よってわけのわからないせん断力を見かけ上消去してしまうと,
曲げに関するつり合い式
は
でいいことがわかる。
最後に方向の力のつり合いから,軸力のつり合い式
が
と求められる。
前節で求めたつり合い式は,長さの梁なら
の
任意点で成立しなければならない。これに分布外力以外の外力条件や支持条件を
考慮するには,境界条件(連続条件)というものを与えてやる必要がある。
ここでは簡単のために,長さ
の1本の梁が両端で
支持されているような場合を対象とし,この端部での条件としての
境界条件を誘導しておく。
基本的に境界条件には2種類ある。一つは変位を与えるもの
である。すなわち梁の場合には,この与える変位成分として方向の
水平移動量と
方向の
たわみが考えられるが,実はもう一つある。
それは章-2で例として解いた片持ち梁の壁側の
条件を考えてみれば明らかであるが,つまり,たわみだけでは
なくたわみ角
も零になる境界が埋めこみ端である。
以上の幾何学的な考察から,
,
と
ある
いは
を
与えるのが変位の境界条件
で,幾何学的境界条件
とも呼ばれ4.3る。
もう一つの条件は外力が作用している境界でのもので ある。章-3で定義したように, 応力は発生している面の外向き法線方向が正になるように 定義されているため,応力の断面内の合計として考えている断面力も, 断面の法線が座標のどちらの方向を向いているかによってその符号が異なる。 これに対し,外力の成分の正の向きは常に座標の正の方向で定義するのが 普通である。曲げについては既に節-2.3.5で 説明したが,再度,この境界条件については図を用いて注意深く誘導することに しよう。
図-4.7に示したのはつまり座標値の
小さい方の端での条件である。梁の端部の厚さの無い部分を
切り出すと,その梁内部側の面は
軸の正方向を法線ベクトルと
する正の面であるから,断面力も座標の正の方向がすべて正の
内力である。一方,外力は図のように座標方向をすべて正の向きと
して定義した。この厚さの無い部分の力のつり合いより
とならなければならないから,左端での力の境界条件
は次のようになる。
一方図-4.8は側,つまり座標値の
大きい端での条件である。この場合,内力の作用する面が負の
面であることに注意すれば,右端での力の境界条件は
となることは明らかである。力の境界条件は力学的境界条件 とも呼ばれる4.4が, それは端部の断面が正の面なのか負の面なのかで微妙に符号が異なって いることに注意すべきである。
以上の2種類の境界条件がそれぞれの端部でそれぞれ六つずつ
あるが,その任意の組み合わせ,あるいはすべてを与えることが
できるだろうか。その答えは否であり,ある種の
組み合わせで境界条件を与えない限り解が唯一に定まることは
無い。例えば支承上はたわみを零にする条件だが,同時に
その反力(この場合は方向外力)をも与えられるだろうか。
静定構造でない限りこの支点反力を予め与えることはできないため,
一般論として両方を同時に与えることはできないことが想像できる。
このように考えてくると,正しい組み合わせの境界条件
は
であり,
それぞれの端部で適切に三つずつ与えられなければならないことが
明らかになる。上式では簡単のために
という記号を用いた。
は端部断面の外向き単位法線
ベクトルと
の正方向の単位ベクトルとの内積の値と考えればいい。
この式(4.23)の「あるいは」ではさんだ変位と力の組については,
仕事という観点から眺めればそれほど不思議なものではないことが
わかると思う。
例えば章-5の式(5.13) (5.19)の柱と梁の
仮想仕事式の外力項を見て欲しい。
以上が基本的な境界条件であるが,浮体に載せられた梁や弾性的な
支持条件等の場合には,この幾何学的境界条件と力学的境界条件が
分離されず,二つが組み合わされて与えられる場合もある。
例えば図-4.9(図は右端の場合の例)のように,
バネ係数の線形バネで支持された条件は,端部の力のつり合いから
となることがわかる。この境界条件を,基本的な2種類の境界条件が 組み合わさった条件であることから,第3種の境界条件 と呼ぶ4.5ことがある。
変形できる梁としての支配方程式と境界条件が
求められたが,構造力学の問題はこの支配方程式を境界値問題
として表して解くことである。
前節のつり合い式は当然静定系のものと同じであるが,
ここでは不静定構造を解くことを念頭に
置き,以上の支配方程式のすべてを変位成分,
で表してしまおう。
そうすることによって,章-2の最後の例で述べたような,
変形も含めた幾何学的な整合性を考慮しながらつり合い式が解けるようになる。
そこで式(4.19) (4.20)のつり合い式に
式(4.9) (4.11)を代入すると,
それぞれ
方向と
方向のつり合い式が
(4.26)
と変位成分で表現できる。
もちろん,もし断面が一様でかつ軸が図心を通るように
設定されれば,この二つの式は
(4.27)
と書くことができる。
以下,一様断面で軸は図心を通るものとして記述をまとめる。
次に境界条件も式(4.23)に
式(4.9) (4.11)を代入し,
式(4.18)のせん断力と曲げモーメントの関係を用い,
さらに図心を通るように軸を選んだことを考慮すると,
両端
に対して
となる。
また,式(4.25)のように幾何学的なものと力学的な
ものが混在する境界条件の場合も同様な演算で変位表示できるが,
この例の場合にはせん断力に関する境界条件が
になるだけである。 式(4.27)のように軸の伸び縮みと曲げを分離して 表現できることから,通常,軸の伸び縮みで主に抵抗する 部材を柱,主に 曲げとせん断で抵抗する部材を梁 と称することが多い。そして両方を組み合わせた構造を骨組 4.6と呼ぶ。以下では梁だけを対象とする。 柱(つまりトラス)については[124]に厳密な解説があるので 参照して欲しい。 ただし,実際の骨組部材は通常立体的に配置されていることから, ねじれも含む曲げも軸力も連成した構造部材になっていることには 留意する必要がある。 これについては章-9の立体骨組の節で説明する。
最初の
例題は等分布外力を受ける左端固定右端単純支持の
不静定梁(4.10)である。
支点反力が左で二つ,右で一つ,合計3個なので,
力のつり合いだけでは解けない不静定構造であることはわかると思う。
境界条件は
で与えられる。は
に関する微係数を表しており,以下頻繁に用いる。
最後の境界条件は,右端は回転自由で,その代わり外力モーメントが
作用していないというものである。
式(4.27b)のが定数
で
あるから特解は
となる。
が無い場合の
(斉次あるいは同次)式(4.27b)に
を
代入して得ることができる特性方程式の根は
の4重根になるので,
その斉次解は
の3次多項式である。したがって一般解を
と表すことができる。微係数を算定しておくと
である。 これを上の境界条件に代入すると
を得る。したがって,第1行目のでの結果を第2行目に
代入して整理すると,
と
を未知数とする条件式が
となるので,これを解けば,
が
と求められる。この結果を式(4.30)に代入し直せば,
任意点の変位が
となる。
上式を2回微分すれば曲げモーメント分布が
となり,さらにもう1回微分すれば,せん断力
分布が
となる。
これをたわみ形状と共に図示したのが図-4.11である。
これより,左端の支点反力モーメントは式(4.32)に
を代入して,
境界条件式(4.28c)の符号に気を付ければ
となる。また上のせん断力に,
を代入して,
これも境界条件式(4.28b)の符号に気を付ければ
と求められる。 このように,構造全体の変形が求められたあとで支点反力が求められることになる。 曲げモーメント図とせん断力図の左右端の値と反力の値の符号の違いには 十分注意すること。
次の
例題は図-4.12の両端固定の梁である。
境界条件は両端で
となる。分布外力条件は前の例題と同じなので,一般解は
式(4.30)と同じである。また左端の境界条件も同じなので,
中間的な解の表現として
と置いていい。これとこの1階の微係数とを右端の境界条件に
代入すると
を得る。
これを解けば結局,
となり,たわみが
となる。この2階の微係数から曲げモーメント分布を
得ることができるが,特に端部の不静定モーメントは
となる。また支点反力も
となる。 これは実は,構造が左右対称なので静定系と同じように力のつり合いでも 求められる。図-4.13に各図を示しておいた。 以上の二つの結果の図-4.11, 4.13からも 明らかなように,1スパンの不静定梁の場合には,両端の不静定 モーメントを求めさえすれば,それに静定梁の曲げモーメント 分布を重ね合わせることによって答を得ることができる。 そのような,重ね合わせによる解法については後述するが,不静定モーメントを 求めるだけなら章-5で解説する方法が便利であり, 現在では実用的にも広く用いられている。 歴史的には他にも数多くの手法が考案されてきたが, この文書ではそういった古典的な方法については適切に取捨選択した。 以上のように不静定構造の場合には,変位を未知数とした 境界値問題を解くことによって,その支点反力や不静定 モーメントおよび曲げモーメント分布等を求めることができることは 理解してもらえたと思う。
一方,静定構造の場合は曲げモーメント分布が簡単に算定できるので,
たわみを未知数とする4階の微分方程式から解き始める必要は無い。
いくつか例題を示そう。図-4.14は
最も基本的な静定梁である。
この場合は章-2でモーメント分布が求められており
となっている。したがって式(4.27b)のつり合い式
まで遡らずとも,式(4.13b)の曲げモーメントと
曲率の関係に上のモーメント分布を代入すればいい。つまり
を解けばいい。
両端の幾何学的境界条件は共にであるから,
上式を2回積分した一般解
を境界条件に代入すれば
,
となり,たわみが
と求められる。1回微分すると,特に両端のたわみ角は
となっている。図-4.15に たわみ形状を示した。
次の例も代表的な静定構造で,先端にせん断外力が
作用した図-4.16の片持ち梁である。
曲げモーメント分布はであるから,
これを2回積分して積分定数を左端の幾何学的境界条件から
決定すると,たわみは最終的に
となる。先端のたわみとたわみ角は
(4.37)
となっている。図-4.17にはたわみ形状のみを示した。
あるいは,先端に集中外力モーメントが作用した場合には,
モーメント分布はと一定になるのでこれも
簡単に微分方程式が解け,壁側の幾何学的境界条件に代入することに
よってたわみが
と求められる。先端のたわみ角はこの微係数より
と求められる。たわみ形状を図-4.18に示した。
次の例は図-4.19にあるように,
単純梁の左端に集中モーメントを加えた場合である。
これも静定構造であり,曲げモーメント
分布が
と
求めらる。これを曲げモーメントとたわみの
関係に代入して微分方程式を解き,両端でたわみが零になる条件で
積分定数を決めれば,最終的にたわみの解が
となる。1回微分すると,両端のたわみ角が
と算定される。図-4.20にたわみ形状を示しておいた。 静定系なので支点反力はつり合い式で求められる。
最後に弾性支持された図-4.21の不静定梁を解いておこう。
一般解は式(4.30)と
同じになり,右端の力学的境界条件が式(4.29)で
表現されることに注意しさえすれば,境界条件は
である。以上の四つの条件に一般解を代入するとと
という関係を得,これを解くと
を得る。これよりバネ支持された点のたわみを求めると
となる。ここに
は弾性支持バネの影響を代表する無次元パラメータである。
支点反力は得られたたわみの微係数を求めれば計算することができるが,
ここでは省略する。
弾性支持という状況は最初はあまり理解できないかもしれないが,
実際の支持条件を観察した場合に,よほど強固な岩盤に直接設置された
支持でない限り,荷重によっては一時的に沈下する支持条件も存在する。
それよりも,強固な地盤・岩盤で支持されていない部分を
近似的にモデル化するような場合等にも,
この弾性支持という条件は用いられることがあることは覚えておいて欲しい。
になるが,これは式(4.40)において
支持バネ係数を零つまりあるいは
とした解でも
ある。
となっていることを示せ。
最後に,式(4.23)では詳しくは説明しなかった
境界条件の組み合わせ方についてさらに理解を深めるために,
簡単な例を解いておこう。
それは図-4.24にあるように,お互いに
つり合った軸力同士が両端に作用している柱である。この場合の
境界条件は
となる。一方,軸方向変位で表したつり合い式は
式(4.27a)の
を零と置いたものであるから,
その一般解は
でいい。
上の境界条件にこれを代入して二つの積分定数
,
を
決めようとしても,最終的には
となってしまう。
これは解が存在しないのではなく無数に存在することを
意味している。つまり,この柱は相対的に縮んでいれば
(上式の第2項の
が
縮みひずみで,
が左端に対する相対的な縮み変位),
水平方向のどの位置に剛体的に移動(上式の
)しても,
その位置でつり合って静止できることを示しているに過ぎない。
また左右の軸力が異なる場合には解が存在しない(外力同士すら
つり合っていないのだから当然で,運動してしまう)こともわかる。
すなわち,境界条件が式(4.28)のような三つの組み合わせで 与えられる必要がある上に,両端である種の与え方をしないと 解が唯一ではなかったり存在しなくなったりすることに十分注意する必要がある。 具体的には,両端の境界条件の中に必ず 幾何学的境界条件を適切に与えておく必要がある。 数値計算等では,境界条件の与え方で入力ミスをすると結果が 出ないことがあるので注意が必要である。 一般論として,解が存在するか否か,存在する場合に唯一であるかどうか については,節-5.4.2でも例示する。