この章タイトルにある有限変位というのは,微小ではない変位の
ことを指す。章-3では微小変位の場合のひずみや
応力を定義したが,ここでは有限変位の範囲のひずみの定義をする。
詳細は章-12を参照のこと。さて
変位前の物体中の任意点の位置ベクトルは
式(3.1)で表すことができるから,任意の微分要素ベクトルは
と表現できる。ただし,ここでは直角座標での説明をするため,
テンソルの共変成分
・反変成分
の区別をせず,すべて下付きの指標で成分を表すことにする。
極座標等の一般的な厳密な表現については
例えば文献[24]を参照のこと。
一方,式(3.3)を考慮すると,
変位後の位置ベクトルの式(3.2)から同様に
と書くことができる。ここには
で定義した変形後の基底ベクトルである。
これは,変形前に空間座標系基底ベクトルと一致するように
定義した上で物体各点に糊付けしたもので,
物体と一緒に変位して変形するベクトルである。
したがって元の基底ベクトル
が単位の直交ベクトルで
定義されたとしても,
の方は単位でもなく互いに直交も
しないベクトルの組になっている。
ひずみは変形前後の微分要素の長さの差として式(3.10)で
定義されたから,上式をこれに代入して整理すると
のようにしてひずみ成分を定義できそうだ。
式(3.10)と同じ表現であるが,式(3.10)の
場合はその線形部分だけが成立していた。
つまり,有限変位におけるひずみテンソル成分としては厳密に
で定義する。このひずみテンソルをGreenのひずみ
テンソルと呼ぶ。
式(E.2)の
の定義を式(E.4)右辺に
代入して整理すると,各成分は
と定義できる。右辺括弧内第3項が式(3.6)で定義された 微小変位におけるひずみ成分には無かった非線形項である。
物理的な意味について,代表的な成分と微小変位の場合の成分とを
比較してみよう。まずは
となるから,ひずみ自体が微小である限り,式(3.4)の
伸びひずみと近似的に一致する。
一方は
となる。これもひずみ自体が微小である限り,式(3.5)の せん断ひずみと近似的に一致する。
前節で定義したGreenのひずみテンソル成分を用いた仮想仕事式は,
その誘導は省略するが,式(B.1)と形式的には同じく
と
表現される。
ただしは第2 Piola-Kirchhoff応力
テンソル成分である。
物理的には,変位前に単位面積を持ち変位後に
方向を
法線ベクトルとする面積要素当たりの,
その物体点の変位後の基底ベクトル
方向の力成分を表している。
したがって,変形後の基底ベクトルが必ずしも単位ではないことから,
それ自体は物理的な応力の大きさと次元とを持っておらず
という調整が必要であることに注意する。
以下簡単のために,添え字のの組を
で記す。
最初は少し一般性を持たせるために,まず,せん断変形の影響を
含んだTimoshenko梁モデル[37,41]に対して
運動場を誘導する。付録-Dで提示した運動場
に対する仮定を図-E.1に示した。
式(4.3)のようにはsineとcosineを
近似せず,式(D.2)をきちんと書くと
となる。は断面の回転角である。
軸線は断面の図心を通るものとするが,変形前に軸線と
平行していた棒の線素は,変形後には
方向を向く。したがって
線素の向きは
軸
と
の
角度をなす。
は断面のせん断変形による角度変化である。
このことから,軸線の変位と傾きの幾何学的関係は
となる。ここにプライムはに関する微分を表し,
下添え字に0が付いた
,
はそれぞれ,
基底ベクトルの回転角
および
の
軸線上(
)での値を表す。
式(E.9)を考慮しながら式(E.8)を ひずみの定義式(E.5)に代入して整理すると
(E.10)
と表すことができる。ここに
で
と定義した。
式(E.9)と式(E.11)の定義を用いると,
変位勾配は
という関係にあることを示すことができる。
変形前に軸線と平行だった任意の線素の向きは,
断面任意点での変形後の基底ベクトルの回転角と変形の関係式
で与えられる。あるいは,せん断変形部分だけについては
という関係がある。